エアコンクリーニング費用の原則:誰が負担すべきか?
賃貸のエアコンは原則「大家の責任」で清掃される
賃貸物件に備え付けられているエアコンは、原則として貸主、つまり大家が管理・修繕・清掃の責任を負っています。これは民法第606条に明記されており、「貸主は賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」とされています。
また、国土交通省が策定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも、エアコンの内部洗浄、特にドラムの分解洗浄など専門業者が必要な作業については「借主が負担すべきではない」と明記されています。
つまり、通常の使用範囲で発生したカビやホコリに対して、退去時に高額なエアコンクリーニング費用を請求されても、それが貸主負担となるのが基本です。まずはこの「原則」をしっかり把握しておくことが、無用なトラブルを防ぐ第一歩となります。
内部のカビ・埃は「自然発生」なら請求対象にならない
エアコン内部にカビが発生していたとしても、必ずしも借主に責任があるとは限りません。なぜなら、エアコンはその構造上、冷房時に結露しやすく、内部に湿気がたまって自然とカビが生えることも珍しくないからです。
このような自然発生的なカビや埃に対して、貸主が「クリーニング費用を請求」してくるのは不当なケースに該当します。特に入居時にすでにエアコン内部の清掃が十分に行われていなかった場合、借主には責任はありません。
トラブルを防ぐためにも、入居時点でエアコンの作動状況や臭い、内部の汚れをチェックして、写真や動画で証拠を残しておくことが重要です。もし異常があればすぐに管理会社や大家へ連絡し、記録を残しておくと後々の交渉に有利に働きます。
フィルター清掃は「借主の通常管理範囲」に含まれる
ただし、すべてのエアコン清掃が貸主負担になるわけではありません。エアコンの「フィルター掃除」や「吹き出し口の拭き取り」など、入居者自身が日常的に行える範囲の清掃については、借主の管理責任とみなされます。
これを怠って埃が大量に詰まっていたり、カビが明らかにひどい状態になっていた場合、「通常清掃を行っていなかった」と見なされて、退去時に追加で清掃費を請求されるケースがあります。
具体的には、2週間に1回程度フィルターを掃除しておくのが理想的です。掃除をした履歴や清掃の様子をスマホで記録しておくと、「きちんと管理していた」と証明しやすく、トラブル防止につながります。
借主が費用を請求される主なケースとその正当性
喫煙・ペット・スパイス料理による汚れや臭い
エアコンクリーニング費用が借主負担となる代表的なケースが、室内での喫煙、ペットの飼育、または臭いの強い料理による臭気・汚損です。これらは通常使用の範囲を超えると見なされ、「特別清掃」扱いで退去時に費用を請求される可能性があります。
たとえば、ヤニによる黄ばみや臭いがエアコンの内部にまで染み込んでいる場合、通常の清掃では除去できず、分解洗浄が必要となるため、1万円〜2万円以上の費用がかかることもあります。
このような場合、国交省のガイドラインでも「借主の責めに帰すべき事由」に該当するため、大家や管理会社による請求は一定の合理性があります。喫煙やペットを室内で許可されている物件であっても、退去時の費用が免除されるとは限らない点に注意が必要です。
フィルター清掃の放置が原因でエアコンが汚れていた場合
エアコンのフィルターや吹き出し口は、日常的な清掃が求められる「借主の管理範囲」とされています。たとえば、フィルターにホコリがびっしり詰まり、エアコンの効きが悪くなっていたり、水漏れやカビの原因になっている場合は、借主の過失と判断される可能性が高まります。
実際に、フィルター清掃を怠ったことで退去時に清掃代として8,000円〜15,000円の請求を受けた例も報告されています。これは、「通常の使用」ではなく、「管理不十分による損耗」として扱われた結果です。
賃貸契約では、住居の善管注意義務(善良な管理者の注意)という考え方があり、入居者は定期的にフィルター掃除をしておくべきとされています。月1回の清掃を目安に、自分でできる範囲はしっかり対応しておくことが賢明です。
契約書に「クリーニング費用は借主負担」とある場合
退去時にエアコンクリーニング費用を請求される際、最も重要になるのが「賃貸借契約書」の内容です。特に「特約」部分に「エアコンクリーニング費用は退去時に借主が負担する」と記載があると、たとえエアコンが綺麗な状態であっても、支払い義務が発生することがあります。
ただし、その特約が「有効」と見なされるためには、金額や内容が明確に記されている必要があります。たとえば「エアコンクリーニング:税込12,000円」など具体的であれば有効とされやすい一方、「清掃費用一式」など曖昧な表現だけの場合は、裁判でも無効とされることがあります。
もし請求された場合は、まず契約書の内容をよく確認し、不明瞭な特約や口頭説明しかなかった場合は「無効の可能性がある」と主張できる余地があります。特に金額が不当に高い場合は、交渉や行政相談も視野に入れるべきでしょう。
契約書の「特約」条項に要注意:支払い義務はここで決まる
特約に明記されていれば、原則として支払い義務が生じる
賃貸契約において、退去時の費用負担に関する「特約」は非常に重要な判断材料になります。特に、エアコンクリーニング費用について「退去時に借主が負担する」と明記されている場合、それは契約上の義務として認められるのが原則です。
たとえば、「退去時ハウスクリーニング費用(エアコン含む)として15,000円を借主が負担」といった具体的な記述があれば、それに従う必要があります。このような条項は、国土交通省のガイドラインでも「合意がある場合は有効」とされており、裁判でも貸主側に有利な判断が出やすいです。
したがって、退去時に「聞いてない」「汚してない」と主張する前に、まずは契約書の「特約事項」欄を丁寧に確認することが最優先です。そこに明確な記述があれば、請求を拒否するのは難しい場合があります。
金額や対象が不明確な特約は、無効とされることもある
一方で、「エアコンクリーニング費用は借主負担とする」というような記載だけで、金額や清掃範囲が明記されていない特約については、必ずしも有効とは限りません。
裁判事例では、金額の上限が不明だったり、「一式」という曖昧な表現しか記されていない場合、借主にとって不利益が大きすぎるとして無効とされるケースもあります。
たとえば、「退去時に清掃費を一律請求する」という特約があったものの、具体的な清掃範囲や価格の根拠が不明であり、実際にはハウスクリーニングだけでなくエアコン内部洗浄費も含まれていたため、過剰請求として一部無効とされた例も報告されています。
このように、特約があったとしても「内容の妥当性」や「明確性」が欠けていれば、法的には争う余地が十分にあります。内容が曖昧な場合は、消費者センターや行政書士に相談することをおすすめします。
署名・押印がない、もしくは説明されなかった特約は無効の可能性も
賃貸契約の締結時、特約に署名や押印がなかったり、仲介業者や管理会社から十分な説明がなされていなかった場合、その特約の効力自体が否定される可能性もあります。これは「消費者契約法」に基づく判断です。
たとえば、「重要事項説明書には記載がなく、契約書に小さく書いてあっただけ」というようなケースでは、「実質的に説明を受けていない=合意が成立していない」と判断されることがあります。
特に初めての引越しや契約時に情報が不十分だった場合、「知らなかった」で済まされない場面も多いですが、その反面、貸主側の説明義務違反を突くことも可能です。
納得できない請求があった場合は、「契約書の記載の有無」「署名・捺印」「重要事項説明で触れられていたか」の3点を冷静に確認しましょう。
そのうえで、文書や口頭で交渉を行い、必要に応じて法的アドバイスを求めるとよいでしょう。
不当な請求を受けたときの交渉術と対処法
ガイドラインと契約書を根拠に「支払わなくてよい理由」を明確にする
退去時にエアコンのクリーニング費用を請求されたとき、「汚していない」「通常使用しかしていない」と感じた場合は、まず冷静に書面での根拠確認を求めましょう。
具体的には、次の2点を必ず確認します。1つ目は契約書の「特約」欄にエアコンクリーニング費用についての明記があるかどうか。2つ目は、国土交通省が発行している「原状回復ガイドライン」の内容です。
ガイドラインでは、エアコン内部のドラムや熱交換器の分解清掃は「借主の通常管理の範囲を超える」と明記されており、貸主の責任範囲とされています。つまり、通常の生活をしていて生じたカビや汚れであれば、原則として費用負担は不要と主張できます。
このように、公的根拠と契約内容の2軸をもって「これは支払う必要がない請求です」と論理的に主張することが、交渉の出発点です。
証拠を整理してから、貸主や管理会社に冷静に申し入れる
主張を通すうえで重要になるのが「証拠の整理」です。口頭での言い合いにならないよう、以下の情報を文書や写真などで揃えておくと説得力が格段に上がります。
たとえば次のような資料が役立ちます:
- 契約書の写し(特約欄の有無と内容)
- 入居時と退去時のエアコンの写真・動画
- 定期的なフィルター掃除をしていた証拠(スマホの写真や掃除スケジュール)
- ガイドラインの該当箇所を印刷した資料
これらをもとに、「ガイドラインに沿って考えると、今回の請求は妥当性がない可能性が高いと考えます」など、冷静かつ丁寧に相手へ伝えましょう。
感情的になると交渉がこじれる原因になるため、主張はあくまで事実ベース・法的根拠ベースで行うことが鉄則です。
応じてもらえない場合は相談窓口や法的対応も視野に
「こちらの説明を無視して強引に請求される」「返答が曖昧で話にならない」といった場合は、専門機関への相談を検討しましょう。
まず頼れるのが、「消費生活センター」や「法テラス」といった無料相談機関です。住んでいた自治体の住宅課や宅建協会にも窓口があります。
また、交渉が平行線をたどるようなら、「内容証明郵便」で正式に異議を申し立てる手段もあります。行政書士や司法書士に依頼すれば、1〜2万円程度で作成可能です。
それでも解決しない場合には、少額訴訟などの法的手段も視野に入りますが、まずは「専門家の第三者意見」が強力な後押しになります。
泣き寝入りする前に、「正しい手順」を踏んで対抗することが、金銭的にも精神的にも最も有効な対策です。
退去前にやっておくべきエアコン対策とトラブル防止策
フィルター掃除と吹き出し口の拭き取りは最低限行う
退去時にトラブルを避けるには、エアコンの「自分でできる清掃」を確実に行っておくことが大切です。特にフィルターの掃除と吹き出し口の拭き取りは、入居者の通常管理の範囲に含まれるため、これを怠っていた場合、請求されても反論しづらくなります。
フィルター掃除は、掃除機でホコリを吸い取った後、水洗いしてしっかり乾かしてから戻すのが基本です。汚れがひどい場合は中性洗剤を使っても構いません。また、吹き出し口やルーバー(風向調整の羽)部分も乾いた布やアルコールシートで優しく拭き取ることで、見た目や臭いの印象が大きく改善されます。
この2箇所の清掃だけで、エアコンクリーニングを回避できたというケースも少なくありません。作業後の写真を撮っておけば、退去立ち合い時に「清掃済み」であることを説明しやすくなります。
エアコンの臭いや異音は早めに報告しておく
退去直前にエアコンを確認したとき、カビ臭や異音がする場合には、なるべく早く管理会社または大家へ報告しておくことが重要です。放置して立ち合い時に初めて発覚した場合、「使用上の問題ではないか」と誤解されやすく、借主負担の話になりがちです。
一方、事前に報告しておけば、「入居中の通常使用による経年劣化」として扱われる可能性が高まります。これは特に、入居から数年以上が経過している場合や、築年数が古い物件ほど有効な対応です。
また、報告時には「臭いや異音の内容」「いつから気になっているか」などを具体的に記録しておきましょう。メールでのやり取りが残ると、後のトラブル回避に非常に役立ちます。
立ち会い時には動作確認とカバー開けチェックを一緒に行う
退去立ち合いの際、エアコンについてのトラブルを防ぐには、事前の清掃だけでなく「その場での確認」が肝心です。具体的には、次の2点を立ち会い担当者と一緒にチェックしましょう。
まずは「作動状況の確認」です。冷暖房・送風機能を実際に動かして、異常がないことをその場で立証しておくと、後から「壊れていた」と言われにくくなります。
次に「カバーを開けて内部を見せる」ことです。あらかじめ清掃してあることを相手に視認させることで、「汚れている」との指摘を防げます。清掃済みであることを口頭だけでなく視覚でも確認してもらうのがポイントです。
また、退去後に「写真を撮られて汚れを指摘された」というケースもあるため、立ち合い時の様子はスマホで写真に残しておくと安心です。
最後にこれらの情報は
一般的な情報であり、最終的な判断は契約書や専門家の確認が必要です。